「問題を解決する」
ということ

(この文章は、2012年のHP開設当時に書かれたものです。)

『ソーシャルワーク』を実践する前に≪大切な考え方≫があります。

保育士のホンネのページ

≪家庭生活の問題解決≫に必要な技術としての≪ソーシャルワーク≫ をご紹介しました。

 

≪問題解決≫の技術や手法として、≪ソーシャルワーク≫という技術はとても役に立つのですが、

ただ、誤解してはならないのは、≪ソーシャルワークで全ての問題が解決される≫訳ではないということです。

 

≪問題を解決する≫ためには、実は ≪問題を解決するための考え方≫が必要になってきます。

 

 

『問題を解決する』=ソーシャルワークではありません。

保育現場のソーシャルワークを学ぶ前に是非 みなさんに「知っておいて欲しいこと」があります。

 

学校現場の「スクールソーシャルワーカー」として活動した中で、特に強く感じたこと。

 

それは、≪問題解決≫と≪スクールカウンセリング≫や≪スクールソーシャルワーク≫は別物だということです。

 

(問題解決)=(ソーシャルワーク、カウンセリング)ではないのです。

 

問題解決のためには、≪問題解決するための考え方≫が必要であり、その考え方の上に技術としてのカウンセリングやソーシャルワークがなければ決して問題など解決できません。

 

これは、きっと「保育ソーシャルワーク」でも同じです。

 

その中でも特に≪重要な考え方≫を1つご紹介したいと思います。

 


≪困っていない問題≫は絶対に解決することはありません。

これは≪スクールソーシャルワークの現場≫のお話です。

 

学校からあがってくる問題や、先生から相談される内容をお伺いしていると、ある特徴が見られます。

それは、先生は困っているのですが、『保護者が困っていない』という場合が非常に多いということです。

 

まず最初に断言しておきます。

不登校であれ、問題行動であれ、DV、虐待どんな問題であれ『保護者が困っていない問題』は解決しないということです。

 

下の図を見てください。これは ≪困り度≫を表したグラフです。

 

学校からあがってくる相談は、≪先生からの相談≫です。

そのため、先生は、クラスの運営上非常に困っています。でも、当の本人はそうでもなく保護者に関しては、ほとんど困っていないし、問題だとも思っていない。

 

担任の先生は、他の先生やカウンセラーに相談し、なんとかしたいと考えているが手の打ちようがなく、現在の状況が全く改善されない。

増えるのは、先生の≪困り度≫の値のみ・・・こうしたケースが多いのではないでしょうか?

 

 

これは、このまま時間が経過してもまず改善しません。

「動きません」・・時間の無駄遣いです。

もし、動きがあったとすれば、それは保護者に何らかのトラブルが発生し、解決しなければ困る状況になったり、

また転居したり、生徒が卒業していなくなる、といった『相手の都合』で変わる場合のみです。

 

これは、こちらが『問題を解決した』のではなく、『問題が自ら立ち去った』だけです。

 

特に不登校の相談などの場合、カウンセラーさんが、「もう少し元気になるまで見守ってみましょう。」「エネルギーがたまるまで待ちましょう」「今は今で大事。今のお子様をすべて受止めましょう」、もし、そうした助言をしようものなら、保護者は安心して≪困ることはない≫のです。

 

保護者が困らなければ、こどもも困りません。カウンセラーも登校刺激はしないのでそして、状況は変わらず、困るのは≪先生≫のみです。

 

では、解決するケースの困り度はどうなっているのでしょう。

下の図が≪解決するケース≫です。

 

 

保護者の困り度が高ければ高いほど解決します。これを≪M 型≫と当研究所では呼んでいます。解決しない、

先生だけが困っているケース。(一番上の図)これは≪L 型≫です。

 

そして、問題が解決していけば、それぞれの値が減り≪一文字≫になるのです。

 

 カウンセラーやソーシャルワーカーが、保護者の≪困り度≫をあげると、先生の不安や不満が減り、

先生の≪困り度≫は下がります。そうすることで平坦な≪M 型≫になり、今度は、児童への働きかけを増やすことで、この≪M 型≫が≪一文字≫に変化し、解決していくのが流れです。

 

先ほどもご説明したように保護者の面談時に、見守りや受容ばかりを提案すれば、保護者の困り度は上がるはずがありません。これが、現在の不登校への対応やカウンセリングの問題であり、この対応は、もう現在変わりつつありますが、まだまだそのままの対応をされている場合が多いのが現実です。

 

≪登校刺激はしてはいけない≫ ≪エネルギーが溜まるまで待つ≫この対応をしなければならないケースがあります。

それは『こどものうつ病』です。

 

当研究所では、こどものうつ病の認知行動療法セラピーを行っておりますが、こどものうつ病の場合、こうした刺激は発症の原因となるのでやってはいけません。

 

 

先生、児童、保護者の≪困り度≫から問題を分析してみるとわかること。

 

それは、≪カウンセラーやソーシャルワーカーの仕事は困らせること≫なのです。

 

ずばり、カウンセラーやソーシャルワーカーが保護者に対して何を行わないといけないのか?

 

それは≪保護者の困り度≫を上げることなのです。

 

つまり≪L 型≫を≪M 型≫に持っていくのが本来の仕事なのです。

 

ただ、誤解のないようにお願いしたいのですが、

≪困らせる≫というのは、単に≪不安にさせる≫ということではありません。 

 

≪不安にさせる≫のではなく、≪考えさせる≫ことなのです。

 

そのためには、もちろん、『言葉がけ』の技術が必要となります。

 

 

 

 

学校現場でも、これからお話する保育の現場でもそうです。

 

問題を抱えている人は、カウンセリングをして欲しいわけでも、ソーシャルワークをして欲しいわけでもありません。

 

ただ、『問題を解決して欲しい』のです。

 

そのためには、「問題を解決する」ための方法を知っていなければ、問題など解決することはできないのです。

 

まず、この考え方を理解することが一番最初にやらなければならないことです。

 

 

「保育者研修」や「保育ソーシャルワーク研修」でもお伝えをしていますが、ケース会議などであがる「問題」というのは、ほとんどの場合、それは「関係者の問題」。「関係している人たちが問題だ」と思っていることを話し合っているのです。でも、それは「問題を抱えている人」が「問題」だと思っていることと、ほとんどの場合、全く異なるものです。

 

その「問題」は、いったい「誰の問題」なのか、そこが違ってしまうと結果は当然違ったものになります。(げんき)

 

 

 


『先生の困り度が低い場合が多い』のが現状。

 

実際に現場に入ると、非常に保護者からの相談が多く、保護者の≪困り度が高く≫、先生の≪困り度が低い≫

そうした状況もよく見られます。

その場合は、もちろん、先生に困ってもらわなければなりません。

 

現場で気づくのは、≪氷山の上≫つまり、見えている部分のみを≪問題≫と思っていらっしゃる先生が非常に多いと

いうことです。

 

≪問題≫というのは、≪氷山の上≫のみをさすのではなく、≪氷山全体≫こそ≪問題≫なのです。(げんき)